急性:慢性ワークロード比(ACWR)とは?
急性:慢性ワークロード比(ACWR)フレームワークとは
コーチとして、アスリートにとって適切なワークロード(負荷)がどの程度かを理解しておくことは重要です。現在、いくつかの理論的な概念が実践されており、同時に多くの誤情報も存在しています。
「休ませればいい」というわけではありませんし、その逆に「もっとやらせればいい」というものでもありません。
トレーニングや試合のブロックを計画・実行するうえで、コーチが活用できる複数のモデルがあります。そのひとつが Acute:Chronic Workload Ratio(ACWR) です。
まず理解しておくべきは、これはあくまで「フレームワーク」であるということです。決定的な指標でもなければ、予測的なもの(たとえばケガを予測するなど)でもありません。さらに言えば、コーチが意思決定を行う際の唯一の情報源でもありません。
しかしこの概念は、計画を立てる際のガイドラインとなり、アスリートとの対話を深める助けにもなります。
以下では、ACWRの理論的背景、定義、そしてこの指標を用いる生理学的な理由について説明します。
ACWRの目的
ACWRは、コーチがトレーニング負荷を評価・監視し、アスリートの過去および現在のフィットネス状態を理解するために役立ちます。つまり、「これまでにやってきたこと」と「現在どれだけの負荷に対応できるか」との関係を可視化できるのです。
急性ワークロード(Acute Workload)
急性ワークロードとは、通常「現在の1週間(7日間)」の負荷を指します。これはすべてのトレーニングや試合での負荷を含み、1日に複数回セッションを行った場合も含まれます。コーチにとって、各アスリートの急性負荷を把握することは非常に有用です。
慢性ワークロード(Chronic Workload)
慢性ワークロードは、通常「直近4週間(28日間)」の急性ワークロードの平均値として定義されます。慢性ワークロードは、アスリートの典型的な週あたりの負荷量を示します。
ACWRに使用できる主な指標
- 総走行距離(Total Distance)
- ハードランニング距離(Hard Running)
- ハードランニング回数(Hard Running Efforts)
- スプリント距離(Sprint Distance)
- スプリント回数(Sprint Efforts)
- 2Dおよび3Dロード(2D & 3D Load)
理想的なACWRの運用には、コーチがすべてのアスリートのデータを毎日確認することが求められます。
どの程度の値が「多すぎる」または「少なすぎる」か?
以下の表(原文では画像)を参照してください。
ただし、どのトレーニング負荷指標を使うにせよ、コーチはそれが「絶対的な答えではない」ことを理解しなければなりません。トレーニング負荷とケガのリスクには、高い複雑性と変動性が伴います。単一の比率や指標で全体像を語ることはできません。競技種目、アスリートの特性、人口集団ごとにケガのリスクは異なります。したがって、複数の情報源を考慮しながら判断することが重要です。
トレーニング負荷を解釈する際に考慮すべきその他の要素
- トレーニング履歴
- 身体的発達段階
- 過去のケガ
- 競技レベル
- 年齢
- 筋肉痛の有無
- 気分・モチベーション
トレーニング負荷の急増とケガの関係
近年の研究では、「トレーニング負荷の急激な上昇」と「非接触性のケガ」には強い関連があることが示されています。コーチの役割は、アスリートの負荷が過度に増加しないよう、トレーニングおよび試合のスケジュールを適切に計画することです。
週ごとの負荷変化(増減)は、ケガのリスクを低減するよう考慮すべきです。現在の研究では、週あたりのトレーニング負荷の増減は±10%以内に抑えることが推奨されています。
強く、フィットしたアスリートを育てる
ACWRは、コーチが恐れるべき指標ではありません。むしろ、モニタリングツールであると同時に、長期的かつ安全に負荷を増やすための計画に活用できる有効な手段です。
コーチが時間をかけて適切なトレーニング量を蓄積し、アスリートを発達させることで、潜在的なケガのリスクを低減することができます。
実践的には、アスリートの負荷を計画・監視することを重視することで、競技に備えつつケガを防ぐ、しっかりとしたトレーニングプログラムを提供できるようになります。